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「…お願いします」
「……遠慮はするなよ、好きな時に来な」
原田は、一応のところ試衛館での立ち会いから北辰一刀流の太刀筋は理解している。
少しかじったという天然理心流も毎日のように手合わせをしているから、そちらの太刀筋もある程度は知り得ていた。
いや何、流派の太刀筋を知っているからといって原田の勝利が約束されるわけでもないが、ある程度の対応を準備することが出来るようになる。
「……………」
じり、と互いの間合いが詰められていく。
ここで痺れを切らしてはいけない。
確実に刀が入るときに、確実に打ち込み、確実に斬り捨てる。
「…、さっ!」
呼吸の音すら聞こえるような静寂を消し去って、まず先に足を踏み出したのは、泉。
短気故かじれて動き出そうとしていた原田へ出籠手を打ち込むつもりで右足を大きく前に踏み込んで、槍を構える原田の左籠手へと斜め横から一太刀に木刀を降り下ろす。
槍を起こしその木刀を柄で受け止めると、すぐに二間(約3m)ほどもある槍を器用に動かし穂先を泉の喉へと、
「っ!こなくそ…!」
しかし原田が声を上げた。
喉を突き、勝利を決めた声ではなく、些かの苦渋が混じった声色で、だ。
原田の構えが崩れている。
泉の木刀が原田の脛を狙ったから、か。
「やあぁッ!」
と、かけ声と共に泉の木刀によった原田の首を狙った突きが入り、原田の穂先も泉の急所へと突こうとするも、木刀は当然寸前のところでその動きが止まる。
「……………」
「………………」
泉の刀の剣先が原田の喉を捕らえ、原田の穂先が泉の腹を捕らえる。
そんな状況でじっと互いを探りあいながら構えも解かず硬直した時間を進めていると、傍らから、がらり、と引き戸の開く音がなる。
「おい、防具持ってきてやった
次沖田相手だろ、使え………、……?」
一同そちらに目を向けると、面に胴に籠手に垂、一式を小脇に抱えた永倉がそこに居た。
一心に視線を受けた永倉が小首を傾げていると、歩みよった沖田がぽつりと、本当場を読めない人ですね、と笑いながら言葉を溢す。
場を読むも何も、締め切っている道場内でどんな緊迫した空気が流れているかなんて分かるものか、永倉は状況を理解したのか、顔を赤くし沖田に反論する。
沖田はそれをさらりと軽く流して、構えを解き木刀を片手にぶら下げる青年へと向き直り口へ笑みを漂わせる。
「次は、僕ですね
貴方の剣術、見せてくださいな」
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