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「そうか、では俺たち浪士組の中に入ってしまっては危ういな…」
「けどね、新八さん」
再び、ぎっと唇を噛む。
「見てたでしょう、あの子、全部を受け流したんですよ…
向こうは僕に一本も打ち込めなかったけれど、同じように、僕の刀も向こうに一本も入らなかった
全部、流水みたいに綺麗に流して」
「随分悔しそうな顔をしているな、総司」
永倉は傍らでにやにやとした笑みを浮かべ、無骨な手で沖田の頭を撫で回す。
沖田はぐちゃぐちゃと掻き乱される髪に顔をしかめながら、
「うるさいな、折角だし新八さんも相手したらどうです
剣のためだけに脱藩した永倉さん?」
永倉新八は、松前藩の百五十石取りの中級藩士の家に産まれた。
神道無念流の門弟で、十八で本目録を受けたかと思えば十九で剣を究めるために脱藩、各地で道場破りをしていたら試衛館、近藤勇と出会い親身になり、剣客として試衛館に居座ることになった。
…という、剣のために安定生活をぶん投げるようなとんでもない江戸っ子男であった。
「しかも、なんか二人とも妙に意気投合してますし」
話をしようと言ったのは僕なのに、と沖田は不満げに言葉を落とす。
すると新八は不思議そうに首をかしげた。
「総司、お前あの子に不満なのか好意的なのか、どっちなんだ?」
「え…どうでしょう
防具さえつけなきゃ剣技もまだ見れるものだし、不満はないですよ?
…あ、そういえばあの子の剣…変な癖があったなぁ」
「変な癖?」
「そうなんです
どこかで見たことある癖…誰だろう?」
泉の打ち込みはほとんど打ち込まれる前に防いだが、避け方や防ぎ方の節々に僅かな癖が見え隠れしていた。
しかも、北辰一刀流のようなどちらかといえば品のよいものとは違い、沖田らのような田舎の土臭い…。
いろいろな流派がまじったような妙な癖だった。
沖田は少し首をかしげる。
がらっ…、
「すまない、遅くな…」
…が、がらっ
「…遅くなった」
戸が立て付けの悪そうな音と共に途中で引っ掛かるも、至って平常心のまま道場内へと足を踏み込む。
皆がそちらを向くと、男が一人事もなさげにそこに立っている。
「!おまっ…厠長いんだよ!」
わいのわいのと原田と雑談をしていた泉が、その姿に威勢よく立ち上がる。
「なんだ、一の知り合いか!」
「あぁ、ちなみに何を早とちりしたのかしらないがこいつは入隊希望者ではないんだが」
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