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「それに関しては、八木邸で仕事をしてもらえばいいだけだ
前川邸に寄越せと言ってきたら、一の恋仲だから無理だ、で十分な理由だと思う」
永倉が泉を一瞥し、そう進言する。
恋仲じゃない、と斎藤が反論するのを聞いても、嘘も方便というじゃないか、と微笑みながら丸め込む。
丸め込まれた斎藤も、泉が根っからの女だったらまぁ特に問題もないが…。
その意見に、なるほどねぇ、と藤堂が納得し感嘆したような言葉をもらす。
ちらりと泉が藤堂を見ると、ん?といった風に笑顔で首を傾げられた。
気づかれていないのはいいのだが、少し物悲しさを感じる…。
「…ところで、小梅さんはどうして喋らないんですか?」
「!」
斎藤が少し焦ったようにぴくりと分かりやすい反応する。
(考えてなかったのか…このあいだ山南さんに言ってたやつでいじゃないか)
表情は変わっていないが、恐らく急ぎ言い訳を作り出しているだろう斎藤を一瞥して沖田に向き直る。
指先を胸のあたりでくるくる回し、次に襟巻きで隠れている喉を指して手を口元にあてる。
「……あ、風邪?喉悪いんですか」
「………」
沖田の言葉に頷く。
とりあえず、無口ではなく喋らない理由としてはそんな感じでいいだろう、あとは話すような機会を少なくすればいいだけだ。
(しかし、総司は変な咳をするな…)
時折沖田がする乾いたような咳が、密かに泉の不安材料になる。
(老咳じゃ…ない、よな)
泉自身、決して肺器官は強くなどない、感染しても完全に発症しない…とは言いきれはしない。
だいたいの人間は結核菌に感染しても発症せずに済むことが多い。
けれど……。
「よし、問題ないな
では明日から住み込みだ、部屋を準備しておこう
では、よろしく頼むぞ、小梅君」
「……」
特に誰からも反論はないと判断したらしい近藤勇のその言葉に、ありがとうございます、という意味を込めて頭を下げる。
これで、斎藤が吉田道場に来なくなっても食住はなんとかなる。
…………多少の不安要素は、あるけれど。
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