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「うわ、」
「…おはようございます」
二人が揃ってげ、とでもいうか、悪戯が母親にばれたような表情を浮かべながら戸の方を見つめる。
そこにいたのは、長く美しい髪を総髪をした、五尺五寸程度の黒一色の美丈夫だった。
勿論、二人につられてそちらを見た泉は、栗のように大きく目を見開くが、それに気づかないのか、男は
「あぁ、おはよう、平助、斎藤
…で、そっちの娘が小梅…だったか?
…と…この八木邸にいるのは基本、癖のある連中ばかりだが、悪い奴らじゃあないからすぐに慣れるだろう」
呆然とする泉に特にこれといった反応もせず、むしろほんの少し優しく微笑みかけた。
そこいらの娘であったら、ころりと転げ落ちてしまうのなんて容易に想像ができる。
そしてすぐに眉を寄せたような凛々しい表情を見せると、また言葉を繋げる。
「副長の土方歳三だ、これからよろしく頼む」
「………………」
「…………小梅?どうした」
「………!」
「小梅?」
「………、………!」
頭を下げるでもなく何か行動を起こすわけでもなく、ただ驚愕の表情を浮かべながら紅をひいた口を酸欠の金魚であるかのように無意味にぱくぱくと開閉させている。
それを見て、当人を除いた三人がそっと怪訝そうな表情を顔に浮かべた。
(そういえば…嘉一の奴、あの晩私のことを歳…と呼んだな…、やはり土方さんのことなのか?)
「…どうしたんだ、こいつ」
「さぁ…」
「土方さんに惚れちまったんじゃないの!」
「馬鹿言え、平助
…そういえばな、斎藤、一つ聞きたいんだが…」
土方と斎藤が二人話を始めたので、泉は斎藤から受けとった包丁片手に沢庵へと向かい合った。
すると泉より少し小さい藤堂が隣に並んできて、奥の篭に乗る小松菜へと筋肉質な腕を伸ばし、しっかりと手に取る。
「えっと、今日の朝餉はご飯と沢庵と小松菜の和え物な
人はまぁ十人くらいいるんだけど、八木さん家の奉公人も手伝ってくれる日もあるからさ、そこまで小梅ちゃんも大変じゃないと思うよ」
そう言ってから藤堂は目鼻立ちのくっきりとした整った風の顔立ちでにこりと微笑み、色のよい小松菜を片手に鼻歌を歌いながらそこの桶まで行き、片手のものを手早く洗ってまた戻ってくる。
そしてまた、相変わらず気づいた様子もなくにかっと笑顔を浮かべて
「よし、じゃあさっさと作っちまおうぜ!小梅ちゃん!」
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