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“この世界は、混沌より始まり、混沌により終わりを迎える”
古い文献の一説だ。まさにこの光景を表している。
赤土の荒野に雷が鳴り響き、空は鮮血に染まり海は黒く、どこまでも暗い。荒野の中心にはまばゆい光、その周囲には無数の亡者が群がっている。彼らの姿は様々で、人の形をしたものもいれば、獣が混じったような異形の姿をしたものもいる。群れを成している亡者たちは、身の毛もよだつような恐怖の咆哮をあげ、終末を祝福しているようにも見えた。
多くの人間が、この光景を夢であれと願い、震えているだろう。しかしまぎれもなく現実だ。救いを求める嘆きを楽しむように、一陣の生ぬるい風が吹き抜けた。
その時、切り立った崖の上から、影が二つ姿を表す。片方の影は片膝をつき、崖から下を見下ろしていた。彼…ロキ・シリウスは呟いた。
「始まったね。クロノ。」
もう一つの影・・クロノ・ラグナは漆黒の髪をかきあげ、眉間に深いしわを刻む。不機嫌な目つきは鋭く、誰が見ても怒気を纏っているのは明確だった。
「馬鹿兄貴。余計な事をはじめやがって。独りよがりもここまで来ると救えねぇな。くだらん。」
「くだらないと思うならとっととこんな馬鹿喧嘩終わりにしなよ。」
そう言ってロキは俯く。辛辣に聞こえるクロノの言葉に心を痛めたのではない。悪態をつきながらも、兄への心を断ち切れていない・・そんな自分にクロノは憤っている。わかってしまった。でも・・とロキは思う。・・それはそんなに悪いことであるのか・・と。
「・・・・余計なこと言うな。こんな事とっとと終わらせる。」
「・・・クロノ・・本当に・・。」
「こらぁ!クロノ!俺以外の人と話したらだめ!」
ギリギリで人影が確認できるであろう場所からはっきりと聞こえた。今の状況をすっかり忘れてしまいそうなくらい、その声は懐かしく、変わっていなかった。ロキは苦笑し、クロノはこめかみを押さえる。
「お兄ちゃんが呼んでるよ。会話禁止だって。」
「兄は昔、猫の国を探すと言って出て行ったっきり行方不明だ。」
「その嘘酷すぎるでしょ。」
「なんならアレお前の兄にしてやろう。喜べ。」
「いやマジ勘弁してそれ。」
「来るぞ。よけろ。」
「え?・・・・・・うわぁ!」
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