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1 静けさの中の嵐
「おお、わがうるわしのプチホテルよ!」
海を見ながら歩いていた浦野が、丘の上に見えた白っぽい建物に気付いて、はしゃいで叫んだ。
丸刈りにアロハシャツなのは馬鹿丸出しだが、悔しいことに少し焼けた肌にスポーツマンらしい精悍な顔立ちなので似合ってなくもない。
――夏休み、俺達新聞部は合宿と称して部費でこの『崖の上のプチホテル』なる場所に遊びにきた。まあ一年生以外は幽霊部員状態だが。
俺はホテルというよりは大きめの別荘に近い、二階建ての古びた建物を見上げた。
ここは学園の関係者が経営する所なので、生徒は毎年格安で使わせてくれる。――おそらくあまり客がこないからだろうが。
そしてここが復讐の……惨劇の舞台となる。
「……入りましょ」
いつのまにか取り残されていた俺にかけられた声。見ると、前方には長い黒髪の大人っぽい少女がいた。
――『蛭間 照』。俺の恋人だ。
「アキ……」
しゃべりかけて思いとどまる。いまさら話す事などない。
――そう、もう賽は投げられたのだ。迷ってはいけない。
俺はアキの横を無言で通り、ホテルの中に入った。
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