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――今、このホテルにいるのは俺達だけだった。
ここのオーナーは学園の偉いさんらしく、生徒だけで泊まる際には教育の一環ということでホテルを共同生活の場として開放し、管理も任せてくれている。
「あ、ヤスさん、部屋の鍵です」
鍵を手渡してくるおかっぱの女。後輩の『万孫樹 唯』だ。今はこのユイが新聞部を取り仕切っている。
「それでですね……客室は二階で、部屋割りは男子が階段の左側、女子が右側――」
ユイの説明をさえぎって俺は言う。
「ああ、わかってる。俺は奥から二番目だったよな」
非常階段のある突き当たりが浦野の部屋で、その一つ手前が俺の部屋だ。
俺は荷物を置きに行こうと階段を上がった。すぐ後ろにはアキがついてきていた。
「……それじゃ」
そう言ってアキは階段ほぼ正面の部屋に入った。俺は左に曲がり自分の部屋に入る。
室内は左に小さなクローゼット、右には洗面所のドア。その先が六畳ほどの洋間で、ベッドと机だけが置いてあった。
「トイレもこの中か……」
洗面所は狭く安っぽいユニットバスだった。首を回すと、壁には小さな鏡。そこには眼鏡をかけた痩せぎすの、真面目そうな男――即ち俺の姿が映っていた。
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