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真緒は自分の耳を疑った。
「……え? パパ、今なんて言ったの?」
家族で食卓を囲み、いつものように夕飯を食べている時だった。
チーズコロッケを食べようと、皿に伸ばしかけた真緒の手は止まったまま。小さな顔を斜め前に向け、口をぽかんと開けている。
「だから、パパは転勤しないといけないから、家族みんなで引越しをする事になったんだ」
真緒の父、公平は、はっきりとそう告げた。
「そんな……じゃあ、学校も変わるって事?」
真緒は泣き出しそうな顔で公平をじっと見た。
2人は顔の輪郭や鼻の形が違うものの、二重の大きな目がそっくりだ。
「真緒、仕方がないのよ。私達だけここに残るわけにもいかないし、それに真緒だってパパがいないと寂しいでしょう? 学校が変わったって、また素敵な友達ができるわ」
真緒の横に座る静香がさとした。
「ママ、そう言ったって、みっちゃんや桃ちゃんみたいな人、向こうに絶対いないよ。あの2人は私の最高の友達なんだから」
真緒は静香の方に向きを変え、小さな手でこぶしを作り、力をこめて言った。
「そうねぇ、真緒はみっちゃんや桃ちゃんといつも一緒だったものね。あの2人みたいな子はいないかもしれないけれど、きっと同じように仲良くしてくれる子がいるわよ」
「そうかなぁ? 私、転校なんて嫌だよ。どうしても変わらなきゃいけないの?」
納得できない真緒に、静香が困ったように微笑む。
すると、真緒はふてくされて唇をすぼめた。そしてその後の食事は食べる気が失せてしまい、喉を通らない。
結局、早々と切り上げて自分の部屋に引きこもってしまった。
「やっぱり、あの子にはつらかったかしら」
静香が公平に言うと、公平も重い返事しかできなかった。
「まぁ、わかってくれるだろう」
コチコチと、時を刻む音が静かなリビング内で響いている。
公平は真緒の座っていた席をぼんやりと眺めた。
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