迎えのバス

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「追い抜いてもらえば?」 「真緒、ここは山道で細いし、どこか横にそれる場所でもない限り、追い抜いてもらう事ができないのよ」  圭一の代わりに静香が答えた。 「とにかく、今はこのまま走るしかない。ママ、車を寄せられる場所があったら教えて」 「わかった。見つけたらすぐに言うわ。くれぐれも事故を起こさないようにしてちょうだい」  ピリピリとした緊張感が車内に満ちた。 聞こえる音は激しく降る雨の音しかなく、真緒もさすがに事故は起こして欲しくないと思い、黙って圭一の運転を見守る事にした。  しばらくして雨がやみ、視界が開けてくると、静香が人差し指を前に突き出して言った。 「圭一、もう少し先の、ほら、そこ! 左側のそこに車を停められるんじゃない?」 「ああ、本当だ。そこに停めよう」  ちょうど数メートル先の左側に車1台分停められる場所があった。  圭一がそこに車を寄せると、後ろにいた黒い車は横を通り過ぎていく。  真緒はその車を窓から見ていた。 とたん、 「うわっ、なんだあれ?」  圭一が叫んだ。  その車の運転席に人ではないなにか――灰色の巨大な泥人形のようなものがいた。そして後部座席にはひとりの少年がいた。少年は髪や肌が白く、幽霊のようだ。 「お兄ちゃん! 今のなんだったの? 今の、人じゃなかったよ!」  車が通り過ぎた瞬間、真緒も叫んだ。 ぞわっと鳥肌が立ち、のどがカラカラに渇く。 たった今見た光景がなんだったのか、真緒は思い出すだけで気分がぞっとした。 「なに? なにがあったの?」 「ママ、さっきの、見てなかったの?」  真緒が驚いて静香の方を見る。  静香は不思議そうな顔をしていた。その光景を見ていなかったのだ。 「さっきってなに? 車がどうかしたの?」 「ママ、見てないんだね。さっきの黒い車……人間が乗っていなかったんだよ!」  唇が震えながらも真緒は説明した。  それを聞いた静香の表情が固まる。  車内はしんと静まり返った。 「まさか、嘘でしょう? なにかの見間違いでしょ?」 「いや、俺も見たんだ。間違いないよ」  今度は圭一が静香に話した。 「はっきりとはわからないけれど、確かに普通の人ではなかったよ。俺が思うに、あれは化け物だった」
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