迎えのバス

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「圭一まで変な事言わないで。そんな事あるわけないでしょう!」 「けど、本当に見たんだ。変な怪物が運転しているのを!」  圭一がそう強く主張すると、真緒は後ろで何度もうなずいてみせた。けれども、静香はいっこうに信じようとしない。 「とにかく、時間がないわ。早く行きましょう」  静香が不機嫌に言うと、圭一は黙って車を動かした。  空は相変わらず曇ったまま、雨がまたぽつりぽつりと降りだす。冷房で冷えきった薄暗い車内では、誰も口を開く事はなかった。  しばらくして、真緒たちの乗る車は大きな建物の前で停まった。赤いレンガでできた大きな壁が屋敷を囲い、外から見えないようにしている。門は大きな鉄の扉で、誰でも歓迎しているかのように開け放たれていた。 「ここかしら?」  静香が大きな門と地図に描かれた絵を見比べた。地図は葛城にもらった封筒に入っていたものだ。 「すごく立派な所だね」  普段見慣れない西洋風の門に、圭一が感嘆の声をもらした。  門の両端には門番がいて、入ってすぐの所に大きな男の銅像が建っているのが見える。 「ここがハイド学園?」  真緒も車のなかからしげしげと眺めた。 レンガ造りの壁には蔦が絡まり、上には槍のような、先の鋭い柵がついている。そこからうっそうとした深緑の木々が顔を出し、風が吹くたびにざわめく。 分厚い鉄の扉を見ると、内側には巨大な鎌が太い鎖でくくりつけられていた。  真緒は唾をごくりと飲んだ。 「なんだか怖そう」 「そんな事ないわ。学校なんですから。さ、降りましょう」  静香が地図を封筒にしまい、車を降りた。  続いて圭一も降りる。 「真緒、行くよ」 「うっ、うん……」  仕方なく、真緒も大きな旅行かばんを持って外に出た。  静香と圭一が門番の男に話をする間、真緒は大きな銅像や奥の方にある屋敷を見ていた。 銅像の男は、大きな杖を両手で持ち、空へと高々に掲げようとしている。そして足元には水のようなものが広がり、しぶきをあげていた。 その銅像から奥にある屋敷までの道は古い石畳で、ところどころ欠けている。  屋敷は横に大きく、どんと構えていて、白い壁に大きな四角い窓がいくつもあった。  だが、人のいる気配がなく、どこか薄気味悪い。
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