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「真緒、なにしているの? 置いていくわよ」
真緒がぼーっと突っ立っていると、静香が手招きして呼んだ。すでに静香と圭一は屋敷へと向かっている。
「ママ、本当にここなの? ここがハイド学園?」
大きな旅行かばんを引きずりながら、真緒は小走りしてふたりに追いついた。
「そうよ。だから気をひきしめてキビキビと動いて」
ふと、屋敷の方からひとりの男が真緒たちに向かってやってきた。黒いスーツをまとい、青い髪を軽く後ろに流し、白い歯を見せ、爽やかな笑みを浮かべている。
「やぁ、菊川さん。お待ちしておりました」
「葛城さん、どうもこの度はありがとうございます。ちょうどあんな事件があった後なので、受け入れてくれるか不安だったんですけど……本当に助かりました」
静香が会釈して礼を言うと、葛城はとんでもないといったように手を横に振った。
「いえいえ。こちらこそ来ていただいてありがとうございます。なにせ本校はあまり世間に知られていないものでして、一部の人間でしか入れないんですよ」
「そうだったんですか? なら、真緒が、この子が入っても良ろしかったんでしょうか?」
「はい。ご心配なく。こちら側としては大歓迎ですよ」
葛城の言動に真緒も圭一も神経をとぎすませて見聞きしていた。変なところがあればすぐに転校を取りやめようと思ったからだ。
「一部の人間というのは? 学園の校舎と宿舎はどこにあるんですか? 連絡手段はどうなっているんですか?」
圭一が矢継ぎばやに質問を浴びせた。それを注意するように静香が目で訴える。だが、そんな事を気にしているのは静香だけだった。真緒もその答えを一言一句聞きもらすまいと会話に集中している。
「まず、校舎と宿舎についてですが、ここから数キロメートル先になります。歩いて行ける距離ではないので、生徒さんは皆バスに乗って移動されるんですよ」
「え? ここじゃないの?」
圭一が目の前にある屋敷を指差すと、葛城が申し訳なさそうに小さく笑った。
「残念ながら、ここは学園ではありません」
「じゃあ、ここはなんですか?」
今度は真緒が質問した。
「ここは学園に通じる土地の端といったところでしょうか? いわば入口みたいなものです」
葛城の言葉の意味を理解できずに真緒は首をかしげた。
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