迎えのバス

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「真緒、なにかあればすぐに手紙を送って。これ、俺の住所だから。俺からの返事はパパやママに一度送って、それをまた学園に送ってもらうようにするから」 「うん……でも、お兄ちゃん……」 「大丈夫。さっき見たアレは、ママの言った通り、俺たちの見間違いだったのかもしれない。きっと恐怖心かなにかが働いて、あんなものが見えたんだ。こことは関係ないし、きっとここなら安心していいかもしれない。それに、なにかあればすぐに迎えに行くから」 「お兄ちゃん?」  真緒は圭一までおかしくなったのではないかと不安に思った。 「ああ、俺はまともだよ。真緒ならきっとなんとかやれる」  笑みを浮かべた圭一が、公平が真緒にするのと同じように、くしゃっと頭を撫でた。  真緒は少しほっとして笑みを返した。そして「もしなにかあったらすぐに手紙を書くからね」と言って、圭一と静香に手を振って別れを告げた。 「じゃあ、行こうか?」  葛城が真緒を見下ろし、手を差しのべた。 「荷物を持ってあげるから貸してごらん」 「あ、ありがとうございます」  びくびくしながら真緒は自分の旅行かばんを渡した。静香や圭一と離れた事で、恐怖がこみあげる。  その様子を察してか、葛城がまた口を開いた。 「心配しなくてもすぐに馴染めると思うよ。まぁ、普通と違うだろうけど……」  後のセリフは真緒に聞こえないくらいの小さな声だった。  そしてその後は会話する事もなく、屋敷の裏の道をただひたすらに歩いた。葛城が早足なため、真緒は途中で何度か小走りしなくてはならなかったが、おかげで葛城の正体の事など余計な事を考えずに済んだ。  数十分後、先を歩いていた葛城の足がとまった。 「このへんで待つことにしよう」  真緒はなにを待つのかわからなかった。質問してみたい気持ちだったが、答えを聞く勇気もない。ただ黙って葛城の横に立っていた。  周囲にはなにもなく、遠くに黒くかすんで見える木々がある。 そのなかから、真っ黒いなにかが真緒たちの方にやってきた。  バスだ。闇に溶けるような真っ黒い小さなバス。窓も黒く、外からは見えない。  それは音もなく、氷の上を滑るようにスーッと真緒たちの前まで来ると、風を巻き起こした。 「ごきげんよう」  バスからひとりの人物が現れた。  真緒は風に吹きつけられた髪の毛を手で整えながら、その人物をよく見ようとした。
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