迎えのバス

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 少年のサラサラした黒っぽい髪は、よく見ると灰みがかった紫のような色で、前髪と襟足部分が長い。そこから青白い肌がのぞき、陰気な感じを与える。 そしてなにより真緒の目をひいたのは、やはり少年の瞳の色だった。  ワインのような赤紫色。光に当たれば濃いピンクにも見える。それが、鋭い眼差しで真緒をとらえる。 「あっ……えと……」  真緒はたじろいだ。 「……座れば?」  少年がそっけない態度で声を掛けた。 「う……うんっ……」  真緒はすぐに返事をするつもりが、できなかった。 なぜなら少年の声が風邪をひいたみたいにかれていて、ちょっとびっくりしたからだ。  席につくと、少女がまた真緒に話しかけた。 「あんた、見かけない顔だわね。ひょっとして転校生?」  真緒をよく見ようと顔を横に傾けるので、深みのある紫の長い髪が揺れ動き、光に反射して輝く。 「え? あ、うんっ!」  真緒は気を取り直して答えた。 「名前はなんていうの? 私は麗華。新荷麗華(にいにれいか)よ」  少女はにっこり微笑んで右手を差し出した。 細い指の先についた爪には、薄いピンクのマニキュアが塗られている。 「私は真緒。菊川真緒(きくかわまお)」  隣にいる少年を気にしつつ、真緒も手を差し出して少女と握手を交わした。 「あ、この無愛想な奴は藤崎貴夜(ふじさきたかや)。いつもこんな風だから気にしないで」 「藤崎君……」  真緒がつぶやくと、隣の少年は麗華の方を向いた。 「……麗華、勝手に俺の名前を出すな」 「だって、あんたが自己紹介しないんだもん」 「これから、するところだったんだ」 「嘘つき。する気なかったくせに」 「あ、あのっ、ふたりは何年生なんですか?」  真緒はとっさに質問を投げた。貴夜と麗華が激しくにらみ合っていたからだ。 「え? あんた1年生でしょ?」  少し驚いた顔で麗華が真緒に問い返す。 「うん、そうだけど……」と、真緒は小さくうなずく。 「急にそんな改まった言い方しないでよ。私達も1年生なんだから」  麗華がプッと噴き出した。まるでスミレの花が咲いたようだと真緒は思った。 「ねぇ、ねぇ! さっき、ワゴンの人が向こうにいたよ。なにか買おうよ」  いきなり元気な声がした。 麗華の隣、貴夜や真緒のいる反対側からだ。
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