迎えのバス

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「て、あれ? みんな反応なし?」  ドサッといすに座ったのは、さっきまでそこにいた赤髪の少年だった。 「遊、どこに行ってたのよ? ついさっきまでいたと思ったらいつの間に……。そんな事より、遊も真緒に挨拶したら?」  麗華がそう言うと、その少年は軽くあしらわれた事にショックを受け、頬を膨らませた。  そしていすの上にひざをつき、上半身を伸ばして真緒の方を見た。 「こんちは。僕は砂緋遊(すなひゆう)。よろしくぅ」  ふんわりとした赤い髪の少年は、白い歯を見せておもいっきりの笑顔で挨拶した。少年にしては声がかなり高い。 「あ、私は菊川真緒」  真緒もぎこちなく挨拶を返す。  少年がすとんと腰を下ろすと、真音は今しがた見たものがなんだったのか気になった。  少年の真っ赤な頭も周りの生徒と違って目立つが、その上に三角の茶色い耳がついていたからだ。 「ねぇ、なに頼む?」  ワゴンが近くにやってきて、遊は真緒達に聞いた。 「あんた、さっき私のチョコ食べたばかりじゃない」  麗華がため息混じりに答えた。 「いいじゃん、なにか食べようよー。僕、もうお腹が減ったよ」 「あんたの胃袋はどれだけ消化が早いのよ? 私はまだ持ってきたお菓子があるから要らない。あ、待って! のどが渇いたから黒煙ジュースだけ注文するわ」 「じゃあ、貴夜は?」 「……血50パーセントで」 「えっ、それだけでいいの? あ、えっと、真緒ちゃんは?」 「えと、い……要らないっ」 「えぇっ、要らないの?」  遊は信じられないといった表情をした。見開かれた青い瞳がガラス玉のように澄んでいる。 「遊、声がでかい」 「早く頼んでよ。お姉さん、通り過ぎてっちゃう」  貴夜と麗華にとがめられ、遊はワゴンを押す女の人を呼び止めた。 「はい。なにをご注文されますか?」  その女の人は真っ黒なメイド服を着ていた。 藍色の髪が床に届きそうなほど長い。頭には遊とよく似た三角の耳がついていて、猫のような細くて長い尻尾がお尻についている。それが動いているところを見れば、ただのコスチュームではない事がわかる。 不思議に思った真緒は、遊にも同じものがついているのだろうかと気になった。
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