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7月の終わり。
真緒達、菊河家は、無事に引越しを終えて新しい家での暮らしを始めていた。
リビングで扇風機の風に当たりながら、真緒はカップに入ったバニラアイスを食べている。
「やっぱり、アイスには牛乳だよねぇ」
アイスの表面に、紙パックの中の牛乳を少し垂らしては、スプーンでその表面を削る。シャリシャリと鳴る音に、真緒は嬉しそうに顔をほころばせた。
「あら? 誰かしら?」
ふと、台所にいる静香が窓の外を眺めて言った。
その時ちょうど呼び鈴が鳴り、静香はぬれた手を素早くエプロンでふきながら、家の外にいる誰かに向かって返事をした。
真緒も誰だろうかと気になり、亀のようにひょこっと首を伸ばして扉の方を見る。
玄関では静香が背を向けて立っているせいで、来訪者の姿がよく見えない。
もしかすると、早速光子と桃佳が遊びに来たのではないかと期待したが、すぐにそれはシャボン玉のように弾けて消えた。
呼び鈴を鳴らしたのは、この季節に暑苦しそうな黒のスーツを着た30代半ばの男だった。
「ええ、でもお言葉ですが、学校の方はもう決まっておりまして……」
静香の声が聞こえた。
どうやら真緒の学校についての話のようだ。
「とりあえず、話だけでも聞いてくださいませんか? 本校は、それはそれは素晴らしい学園でして……」
2人の会話に耳を澄ませていると、真緒はなんだかとても気になってきた。そしてもっと詳しく聞こうと、アイス片手に静香の後ろまで行く事にした。
「本校は全寮制でして、生徒同士の親交を深め、授業に集中できる環境となっているんですよ。また、本校の敷地内には楽器団や料理人など、快適な暮らしを提供するため、様々な業界のプロの方もいらっしゃるんです」
男はにこにこした笑顔で、ペラペラと学校の特色を並べたてた。
肌が浅黒く、青い髪を軽く後ろに流していて、きりりとした目元と白い歯が爽やかな印象を与えていた。
なのに、汗一滴かかず、どこか病的にも見える。
手には大きな茶封筒をいくつも抱えていた。
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