奇妙な出来事

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「まぁ、そんな素晴らしい学園なんですか。でも、あいにくうちにはそんなお金がありませんので……」  静香が言い終わらないうちに、その男はまた話し出した。 「そんなお金の心配はご無用です。本校の学費のほとんどは町が支払っておりますし、奨学金制度もございますので、足りない金額は卒業後のお支払いで結構なのです。それに、おそらくあなたが予想するよりはるかに額は低いかと……おや、そちらにいらっしゃるのが娘さんですか?」  しゃべりに夢中になっていた男が、ふと真緒の存在に気がついた。  真緒は男と目が合い、どきりと胸が高鳴った。そしてぎこちなく挨拶をすると、男もこれぞ究極と言わんばかりの笑顔で挨拶をした。 「えっと、真緒ちゃんだったかな? どうだい? 学校が変わるのは嫌だろう? けれどもうちの学園に入れば楽しい事間違いなしだよ。いろんな行事があるし、生徒や先生もみんな仲がいい。きっとまた良い友達ができると思うよ」 「本当に?」  真緒が不安な顔で尋ねると、男は相変わらずにこやかな表情を浮かべてうなずいた。 「おや、なんだ? こんな所で」  急に男の後ろから声がした。 「あら、あなた」  静香がその声の人物に気がついた。その人物は公平だった。 「ああ、真緒さんのお父様でしたか! これは失礼、私は学園ハイドの案内人、人事担当の葛城と申します」  振り返り、さっと名刺を渡した男は、公平にも極上のスマイルを見せた。が、公平は顔をしかめて「ああ」とだけ言って、家のなかに入った。 「お父様、ぜひお父様も話を聞いてもらえませんか?」  葛城がそう声をかけると、静香も真緒も公平の方を見る。  公平はしかめっつらのまま葛城を無視し、靴を脱いで、こう一言。 「間に合ってます」  それを聞いて、静香は思わずクスッと小さく笑った。 「そういうわけなんで、せっかく説明してくださった学校の件ですが」と、静香が断りを述べていると、急に言葉が出なくなった。  それに気付いた真緒は、固まった静香を見て、そして葛城に視線を移した。
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