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「それともなんです? 私が化け物とでも言うんですか? そんな冗談はよして下さいよ」
葛城の反応に、真緒は握っているシャツを軽く引っ張り、黙って公平を見上げた。嘘ではないんだという力強さと、信じてくれるだろうかという不安が、真緒の漆黒の瞳に宿っている。
そんな真緒を公平はただ見つめ返した。
その時、葛城の背後でなにか黒い物体がうごめいた事に、ふたりは気付く事はなかった。
「第一、目の色が変わった所で、私になにができるんです?」
葛城に言われて、公平は眉間にしわを寄せ、考え込んだ。
「それもそうだな」
「パパ!」
心配した真緒は叫んだ。
「だが……」
公平がそう言いかけた時、またしても奇妙な事が起こった。
静香の時と同様、公平がなにも言わなくなったのだ。
「パパ?」
葛城の方を向いている公平の顔をよく見ようと、真緒は爪先立ちになった。
公平の目が前を向いたまま、まばたきひとつしない。
真緒ははっとし、すぐさま葛城の方に向き直った。
だが、葛城は澄ました顔でそこに立っている。目の色も金ではなく、黒のまま。なにひとつ変わったそぶりを見せなかった。
「真緒、ここの学園に通いなさい」
まるで裏切ったような、突然の公平の言葉。
真緒は冗談でしょうと言わんばかりの表情を浮かべ、公平を見つめた。
「また転校する事になったら嫌だろう? でも、学校の寮にいるなら、今度は友達と離れずに済むじゃないか。そのかわりママやパパとは、今までのようにいつも一緒にいる事はできないが……」
「パパ、それ本気で言ってるの?」
「ああ、本気だとも。ママの言うように、時には考え直すのも悪くない」
公平がそう言うや否や、真緒は手を離した。
「もう、パパなんて大嫌い」
涙声で言い放ち、自分の部屋へと駆けていった。
溶けきったバニラアイスがそこらじゅうに飛び散り、床の上ではカップがひっくり返っている。
しばらくの沈黙後、葛城は静かに口を開いた。
「まぁ、じきに娘様も本校を気にいって下さるでしょう」
「ああ、そうだといいんだが……」
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