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少女の名前は ミカタといった。
このココロの世界での彼女の役割は、全ての出来事を記録すること。出来事とは、正義と悪の戦争だった。
ココロの世界では今、正義と悪が神のココロをめぐり争いが起こっている。
どちらが神のココロに相応しいか。
どちらが世界を支配するか。
これらの事で争いは起こったのだ。
最初は正義も悪も百人ずついたのが、どちらも少しずつ減ってきている。互いに滅ぼし合い、死ねば正義は白い砂に、悪は黒い光となり空へと消えてゆく。
今、ミカタの記録によれば正義は悪に追い詰められている状況だった。このままだと、世界は悪に支配されるのだろう。
「何故に、彼らは戦う也」
ミカタは、地面に寝転び黒い空を見上げた。
「戦えば、仲間は消える也。淋しい也。一人になる也。神のココロはそれほど大切なもの也か?」
分からないと、ミカタは誰かに尋ねるように言う。
「私は最初から一人だから、奴らのことなど分からぬ也」
そっと、灰色の瞳は閉じられる。
最初から正義でも悪でもないミカタに、彼らのように仲間など居なかった。
ただ一人で、ずっと全てを見守ってきたのだ。
これからもずっと一人で。きっと全てが終わるまで。
自分は何故、全てを記録するのだろうか?
ミカタは今までに何度もその謎に対面してきた。けれど、答えは一度も見つからなかった。
しかし、これが神から与えられた役割ならば、自分はそれをやらなくてはやらない。ミカタは、そう考えるしかなかった。
このココロの世界の事など。
正義と悪の戦いの事など。
自分自身のことすら、ミカタには分からないのだから。
「……っ」
ミカタは不意に目を開いた。
誰かが近づいている気配がする。
キュッキュッ。
砂を踏みしめるその音は、徐々に此方へと近づいていた。
そして、音が止んだ時、ミカタは空を見上げたまま冷たく言い放った。
「私はミカタ也。お前らと関わる事など無い也。殺そうとするならそれは間違いだ、さっさと去る也よ。」
…………。
「ボクだよ、ミカタ」
すると、上から小さな影がミカタを包んだ。
「……。お前だった也か、ノイン」
そこに居たのは黒い髪をした、幼い悪の少年だった。
ミカタより僅かに小さい男の子。
ノインと呼ばれたその少年は、ニコリと笑うとミカタの横に腰を下ろした。
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