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「ミカタはいつもここに居るよね。直ぐに見つけられるや」
ノインが笑うと、口から小さな八重歯が可愛らしく覗いた。
ミカタもゆっくりと起き上がる。すると、灰色の髪に白い砂が絡んでそれは綺麗に流れた。
「ここは見晴らしが良い也。私はここでお前らをいつも見ている也」
この世界で一番高く積み上げられた砂の山。
一番空に近く。
一番皆から遠い。
けれど、ここは遥か遠くまで望めそうなくらいに、世界を見渡せた。
「そっか」
「そう也」
乾いた風が二人を包む。
「……今日もまた、正義が滅んだ也。ノイン、お前らが勝った也よ」
「そっか……」
やっぱり見ているんだね。と、ノインは微笑んだ。
「嬉しく無い也か?」
「どうして?」
ノインは笑う。
ミカタはちょっと困った顔をした
「お前らは、互いに滅ぼし合って生きている也。敵が滅んだら良く無い也か?」
「そうだね。正義がいなくなったら、僕らはこの世界で生きていける。でもね、ミカタ。僕は嬉しくは無いかな」
「何故也?」
「僕らが戦う理由。ミカタはいつも考えていたね」
ノインは立ち上がり空を仰ぐ。
彼の黒い髪は空に溶け、なお美しく見えた。
「神は、自分のココロの行く末を見いだせず、この世界を創った也。」
百人の正義と、百人の悪。
そのどちらでも無い、一人の少女。
全ては、神のココロから生まれ落ちた。
「正義と悪を戦わせ、神は自分のココロの行く末を決めようとしている也」
「知っているじゃないミカタ。そうだよ。だから僕らは戦う」
「そうじゃ無い也!」
灰色の瞳を揺らしながらミカタは叫んだ。その声は風には乗らず、砂に吸収され静かになる。
「だから何故戦わなきゃいけない也か? 正義と悪は一緒じゃダメ也か?」
「ミカタ……」
「神は、身勝手也」
ミカタは静かにうなだれた。
「ノイン、お前は何故戦う也」
「……神がそう決めたから」
「じゃあ何故! お前はそんなに辛そう也か」
ミカタの問いかけに、ノインは黙ったまま腰を下ろした。
「……そうだね、辛いよ。仲間が消えていくのは。それは正義も一緒」
戦わなければ殺される。
戦えばどちらか必ず滅びる。
互いにその辛さは分かっているのに、この戦いは止められない。全ては神が仕組んだことだから。
「辛いなら戦わなければ良い也。こんな戦い、私は記録するのは嫌也」
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