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全てを見てきた。
皆が殺され、消えていくのを全て記録し、覚えている。
「多分、それは無理だよ」
「?」
ミカタが尋ねるより早く、ノインは言った。
「たとえ戦わなくても、どちらかは滅びる。それも、僕らが」
「何故、分かる也。お前は勝っている也よ」
ノインは空に手を伸ばす。
「この世界の外。もっと遠くの世界では、僕らはどうやらいけない存在らしい」
その証拠にと、ノインは瓦礫の山を指す。
荒れた地面。
もっと昔、この世界が生まれた時は世界は違う景色をしていた。
建物があり。
住む場所があり。
正義と悪はそれらの在るべき場所で生きていた。
しかし。
「覚えている?全部僕らが壊したんだよ」
「そうだった也」
「それは、いけない事だったんだ。そして神はそれに気づき始めている。正義こそ正しいと、僕らは存在してはいけないと……」
世界に悪は毒だから。
……。
…………。
「それは、おかしい也」
「そうだね。おかしいよ」
だって――
「僕らにとって、正義こそ悪なのにね」
殺さなきゃ 殺される。
生きていたいのは、どちらも同じ。
「やっぱり、分からない也」
ミカタは、ローブを握りしめる。
「……僕も」
悪とは。
正義とは。
「でも、神がそう言うのなら……ミカタにもきっと分かるよ」
また、風が吹く。
「ぁ……」
それは、ミカタにしか聞こえない風の音。
「……今度は、悪が滅んだ也」
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