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世界は急変した。
悪に押されていた正義が、急に悪を追い詰め始めたのだ。
それは、悪に生きる少年、ノインが言っていた事がまるで本当の事になったようだった。
戦いの先頭に立ったのは、一人の少年だった。
誰よりも美しく映える白髪。誰よりも熱く燃える赤い瞳。
舞うように剣を振るい、正義のため悪と戦う彼の名を“レイン”と言った。
彼こそ悪を滅ぼすために生まれた正義の名に相応しいと、他の正義に生きる者達はレインを褒め称えていた。
それもそのはず。
成長したレインが戦いに参加してから、正義は悪に勝るようになったのだから。
悪との間にできた差はあっという間に縮まり、そして正義は悪より上に立ち始めた。
世界は急変した。
神のココロは、正義に染まりだしたのだ。
□□□
――正義はあと、四十八也。
――悪は……十二也。
その中には、ノインの姿もあった。
□□□
「――世界は、大分変わった也」
そう呟くのは、くすんだ色のローブを纏った一人の少女。
少女は、鉄のような灰色の髪にそれと同じ色の瞳をしていた。
少女。ミカタは、いつものあの場所に立ち、世界を見つめている。
世界は大分変わってしまった。
そうミカタは言うが、ココロの世界の外見はそれほど変わってはいない。
地面には白い砂が積もり、かつて正義達が作り上げた文明の残骸が散らばっている。言うなれば、空は前より増して黒くなっていた。
世界は前より不安定になっているようにも見え、ひっくり返ってしまいそうだ。
「静か也」
この世界に生きる者が少なくなったせいか、世界は前よりも静かになった。
乾いた風が砂を撫でる音がより鮮明に聞こえる。
「綺麗な音、也」
「そうか?」
「!」
振り返ると、そこには白い髪の少年がいた。
「俺には仲間の悲鳴に聞こえるがな」
「レイン」
「久しぶりだな、ミカタ」
レイン。
正義に生まれ、自分を正しいと信じ、真っ直ぐに戦いに生きる少年。
白い甲冑に身を包み、今し方また悪を滅ぼしてきたようだった。
ミカタにはそれがわかる。
「また、悪が滅んだ也か……」
「何故そんな顔をする? 正義が悪を滅ぼしてなにが悪い」
「そう也な……」
確かにレインの言っていることは正しい。これは戦いなのだ。
「レイン。お前がここに来るのは久しぶり也。どうした也か?」
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