正義とレイン

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  「戦況を聞きに来た」  レインはミカタの横に立つ。  レインの言葉に、ミカタは何かを感じるよう灰色の瞳を閉じる。 「今は……お前ら正義の方が遥かに上也」  感じる。  こうしてる間に、またどちらかが滅んでゆくのを。 「そうか」  レインは笑っていた。 「嬉しい、也か?」 「当たり前だ。悪が滅べばやがてこの世界は正義のものになる。戦いは終わり、世界は平和になるのだからな」  戦いが終えた時。  その時、世界は一体どんなふうに変わるのだろうか?  皆が同じように考え、それぞれ異なった答えを出してきたが、実際どうなるかなど誰もわかっていない。  だから、レインの言う通りになるかは分からない。 「本当に、そうなのか也」 「なるさ。悪は必ず滅びる」 「どうして分かる也?」  言い切るレインに、ミカタがどうしてかと尋ねると、レインはその場にしゃがみ地面の白い砂を掴んだ。  それは、戦いに敗れた正義達のなれの果て。  レインの手の中を滑り、指の間からこぼれ落ちゆく。 「見ろ、コレが俺達だ。死んで、こんな姿になって皆に踏まれ、なんて無残だ」  こんな姿になったのも悪のせいだと、レインは憎むように砂を固く握りしめる。 「あいつらが居なければ、俺達の住む場所もああにはならなかった」  それもまた昔の事。  正義達が築き上げた文明。それは悪に破壊されてしまった。今はもう、その残骸しか残ってはいない。 「仲間のため、正義のため俺達は悪を滅ぼさなければならないんだ」  レインは言う。 「それで、この世界は平和になる也か?」 「俺達がやってみせる。どうせ破壊を好むあいつらには、到底無理な話だからな」  悪には無理。  平和をつくる事も、居場所をつくるのも。  その言葉を聞いたら、何故だかミカタは悲しくなった。 「ミカタ。一緒に来てくれないか?」 「何也?」 「見せたいものがあるんだ」  急にレインは立ち上がり、ミカタへと手を伸ばした。  ミカタは少し躊躇したが、レインが優しく微笑んだのでミカタはその手をとり、一緒に砂の山を下って行った。 「――ここは」  それは、一瞬目を疑う光景だった。  レインの手に引かれミカタがたどり着いた場所は、言うなれば“村”だった。  あの白い砂の地面の上に、僅かながら住むべき場所が作られている。無残にも瓦礫となったあの破片が生き返ったようだった。
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