プロローグ

2/5
前へ
/85ページ
次へ
今年もセミがうるさいらしい。 夏を体感している自分が、らしい、というのは変な気もするが、実際聞こえないのだからそう言うしかない。 最初はなんで聞こえないのかがわからなかった。 耳が悪いわけではない。 でも気がつけば、あの日から二週間たった今、俺は耳からウォークマンを外すことをあまりしていなかった。 外界からの音を一切閉ざしている。 それほどに、自分はショックを受けていた。 ウォークマンから流れる音はクラシックばかりで心を落ち着かせる。 恋愛の、しかも泣ける歌詞の現代の音楽ではダメージが強すぎた。 そして視線と意識は本の中。 恋愛や友情や家族物の物語を読みあさる毎日が続いたが、ハッピーエンドがつまらないので、ジャンルを変えた。 雑学、だったり歴史だったり、他には小学生向けのクイズの本。 それらの全ての本は、家の裏にある図書館で借りる。 たまに、宿題をやりに行ったりもする。 アイツと別れた今、アイツと会える確率の高い図書館に通いを続けていた。 今日は少し遠くの本屋さんへ行って、DVDを借りてきた。 泣ける動物の話だ。 恋愛や友情なんて、見たくない。 とにかく人との関わりを避けたかった。テレビ画面を見ながら犬はいいなあ、などと考えている時、家の電話が鳴った。 電話の音に胸がドキっとする。 昔は携帯を持っていなくて、家の電話でアイツと話していた。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

167人が本棚に入れています
本棚に追加