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『う、んっ良う寝た』
閉め切った部屋に何処からか香る沈丁花の香りに誘われて目を覚ます。
日当たりの悪い軒下に植わっている割に、よくあの沈丁花は育ってる。
毎年まだ少し寒い時期に香りを漂わせ、憂鬱な私の気分を和らげてくれる。
ついこの間までは濃紅の蕾だったと思うに、もう薄紅の花が開いているのか。
小さな花が手毬の形に集まって咲くあの花は、嫌いじゃない。
あの花の赤くて可愛らしい実が、実は有毒だったりするのも結構気に入ってる。
姿で騙す辺り、私達に似ておるからかもしれない。
澱む空気を追い出す為、窓を開く。空を見上げれば高い位置に、鋭利に尖った月が上ってる。
私にとっては、それで当然。
私の活動時間は夜だもの。
あぁ、柔らかな月明かりが心地良い。
不躾に肌を焦がす日の光よりもずっと良い。
『ん、お腹空いたなぁ。
誰か通らぬかな』
今の空腹具合だと、全部吸い取ってしまいそうだな。
まぁ、殺しておかないと私の存在が知られて討伐部隊とか編成されかねないし、丁度良いか。
流石に部隊の人間全部干乾びさせようとしたら私の腹が破裂する。
うん、明日辺り大通りに変死体が一つ転がってるかもね。
私は赤が好き。
有毒な沈丁花の実の色。
命の色の暖かな色。
美味しい色で奪略の甘美。
私は吸血鬼。
だから私の活動時間は夜。
昼間に活動する仲間も居るけど、私には在り得ない。
肌が爛れるなんてお断り。
折角、騙して生血を啜れるようにと人より優れた容姿を与えられてるのに、殺生を嫌がって日輪の下を歩くなんて考えられない。
私は吸血鬼。
鮮やかに赤い命を捕食する者。
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