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「お姉さん、だーれ?」
氷の様な瞳を向けながらゆるりと忍が笑んだ。表情とも声とも一致しない瞳は抉ってやりたくなる程に良い。
男から向けられる鋭い殺気すら、私には心地良い。
『吸血鬼よ』
忍の作られた表情に応える様に、ゆるりと微笑んでやる。
ゆっくりと、指先一つの動きすらも、獲物を誘い込む術を知り動く。
捕食者としてのあり方、捕食の方法。
全てが本能に刻まれたもの。
それは人が己を護る為に笑う事話す事媚びる事を知るのに似るのだろう。
「へぇ…」
吸血鬼などと返される事を予想していなかったのだろう、男は少し間の抜けた顔をしていたが、また作り物を貼り付けた。
私の言葉は冗談と取ったらしい。
それを表す様に、私へと向ける殺気の濃度が濃くなった。
忍なら現実主義であるべきだし、当然ではある。
『疑わしい?
でもホントよ?
なんなら此方へ下りてきたら?』
私が言を紡ぐ間にも、殺気は膨れ上がっていく。
それでも切りかかってなどこない。
そんな事をすれば、私は当然忍を殺す。
忍も得体の知れない恐怖と言うモノから無意識にそれを理解しているのかもしれない。
夜とは言え、細身の女相手にこの警戒は普通でない。
やはり、良い忍なのだろう。勘というものは大切なモノで、生まれつきの才能。
案外天才と呼ばれているような忍かもしれぬな。
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