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「なーに?
俺様が下りて行ったら俺様を殺しちゃう気?」
暫く考える様にしていた忍が漸く言葉を発した。
やはり笑顔を貼り付けて、おどける様に。
『そうね、あなたがあんまりにも美味しそうだったら…つい食べてしまうかもしれないわね。
これから食事に行こうと思ってた所だし、お腹は空いてるの』
あくまで艶やかに、普通の人間なら恐怖など感じないだろう笑みを浮かべてそう返してやる。
忍は一瞬驚いていたが、次には面白そうに笑んだ。
この男、中々に面白い。
甘く良い沈丁花の香もあって、私は少し機嫌が良い。
もしかしたら、この男は殺さずにおけるかもしれぬ。
「お姉さん、怖いけど面白いね。
越後で男の変死体も発見されてるし、お姉さんの話を信じてあげるよ。
でも、俺様は大人しく食べられる気なんか無いからねっ」
そう言うと男は一瞬の内に私の前に立っていた。
…ほんに面白い男だ。
殺すには惜しい。理性が食欲に勝てば良いが…。
さて、どうなるか。
『いざ食われそうになったなら、その俊足で逃げる事じゃな。
そしたら私は他を食べに行くだけじゃが』
「それはそれでちょっと困っちゃうね」
そう言って浮かべられた男の苦笑は、人間を魅了する様に作られた私にとっても美しいと感じられるものだった。
………本当に、理性が保てば良いのに。
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