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とあるバス停。
眩しい日差しが降り注ぐ。
季節は春。新たな始まりの季節。
ポカポカとした陽気で心が和む。
遊園地までのバスを待つ最中でさえ、こんなにも穏やかで優しい気持ちになれるのも、ひとえにこの天候のおかげである。
祥子も新しい学年に上がり、クラス替えがあったようだ。仲の良かった子とクラスが離れてしまい、ショックだったそうな。
まぁ、何にせよ楽しそうだ。
「それでねー。達也君たら、酷いんだよ?あたしの事ぶってきたの!」
「へー。それは酷いわねー」
「…………おかーさん、あたしの話聞いてるの?」
「聞いてるわよ。一字一句漏らさずね」
「………まぁ、いいけど。……それにしても、バス全然来ないね」
「そうねーホントにねー」
「…………お母さん……楽しくないの?」
祥子の怒った顔はホントに可愛い。ついつい、からかいたくなってしまう。
「祥子が可愛いからよ」
「えっ………あ、ありがとう」
笑った祥子も、また可愛い。
あぁ。幸せだなぁ。
こんな日常がいつまでも続けばいいのに。
それ以外、もう何もいらない。
それだけで良い一生を過ごせたと素直に思える。ただの暮らしが一番良いのだ。
何時までも、何時までも、幸せでありますように―――。
その時。
突如、轟音。
天地を揺るがす程の轟音。
今まで聞いたことのない程の衝撃音。
ガラスが激しく砕ける音。
タイヤのスリップする音。
周囲の人の叫ぶ声。
沢山の音が辺りに響き渡った。
大きな。
非常に大きなトラックが眼前に迫ってくるのが、見える。
あぁ―――私は死ぬのだろうか。
ならば、せめてこの子だけでも―――――
そして――――――――――――――
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