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「………さん………おかーさん……おかーさん?大丈夫?」
誰かが私を呼んでいる。
誰だろう?
いや、私は誰だ?
「バスに乗ってから、具合悪いみたいだけど………寝不足?ホントに大丈夫?おかーさん?」
…………あぁ。思い出した。何だか、酷く長い夢を見ていたようだ。
私の名前は西口冴子。
1児の母であり、親子関係は非常に円満。夫婦仲も比較的良好。但し最近は夫が帰るのが遅く、浮気をしているのではないかと危惧している。あの堅物がそんな事をする筈が無いと思うが。
杞憂であって欲しい。
そして、今日は休日。娘の祥子を遊園地へ連れて行く道中でバスに乗っているのだった。
確認終了。
「大丈夫よ。ちょっと、ボーっとしてただけ」
「ホントに?……それならそれでいいんだけど……無理はしないでね」
「ありがと。………ま、今日ぐらいは無茶してもいいと思うけど。だって、祥子。どうしても行きたかったんでしょ?デズニーランドに」
「!!………うん!だってね、今日から春のパレードが始まるの!」
「へぇ………それは楽しそうねぇ………」
「楽しいよ!絶対!!今日は、夜まで一緒に見ようね!」
「ハイハイ……全くこの子は……」
呆れつつも、自然と笑顔になっている自分に気付く。
喜んでいる祥子は可愛い。この上無い。
世の中には自分の子供を虐待する親がいるそうだが、私から言わせればそれは有り得ない事だ。
どうやったら、この子を傷つけられようか。
これほどまでに愛らしく。
これほどまでに無邪気で。
これほどまでに純潔で。
そんな我が子を将来、赤の他人に嫁へやらなくてはならないと思うだけで悲しい。夫もきっとそう思う筈だ。
婚約を結び付けるのは至難の技だろう。
その至難すらも愛のガッツで乗り越えられる男性こそが、祥子には相応しい。
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