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「杉山通りー。杉山通りに到着致します。」
バスの間の抜けたようなアナウンスが響く。急に現実へ引き戻された感じだ。
「もうそろそろだね………私、ワクワクしてきちゃった!」
「そう。良かったわねー」
「………お母さん………どうしたの?………何で元気ないの?何か悩みでもあるの?」
「何もないわよ。ちょっと、疲れが溜まってただけ」
「もしかして………お父さんのこと?最近お父さん帰って来るの遅いから……お母さん、心配してるの?」
何という事だ。
我が愛娘にまで心配されてしまうとは。
そんなに態度に出ていただろうか。
意識していたつもりは無いが………とにかく気をつけよう。
「確かに少しはあるけどね。でも、大した事じゃないのよ。ゴメンね、心配かけて」
「何か悩みがあったら、祥子に言ってね!そーだんに乗ってあげるから!」
「ありがと。祥子は将来、良いお嫁さんになれるわよ」
「エヘヘヘ…………」
西口親子は今日も平和だ。何の問題も無い。幸せで理想とされる親子関係の図。
いや。
これが【一般的】なのかもしれない。
殆どの人間は自分が自覚している以上に幸せなのだ。
幸せを実感出来れば、人生は楽しい。
何の問題も起きる事無く。
全てが平穏で。安穏で。
心の底から思う。
この上無く私は幸せである――と。
その時。
突如、轟音。
天地を揺るがす程の轟音。
余波でバスが揺れる。
タイヤがスリップするような音。
運転手の叫び声。
バスの運転席から見える景色。
非常に大きなトラックの姿。
迫ってくる。近付いてくる。大きくなる。
窓がぶち当たる。
砕ける。飛んでくる。
あぁ―――私は死ぬのだろうか。
ならば、せめてこの子だけでも―――――
そして――――――――――――――――
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