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「………さん………おかーさん……おかーさん?」
誰かが私を呼んでいる。
誰だろう?
いや、私は誰だ?
「どうしたの?急に黙りこくって……………何か悩み事?」
…………あぁ。思い出した。何だか、酷く長い夢を見ていたようだ。
私の名前は西口冴子。
1児の母であり、親子関係は非常に円満。夫婦仲も比較的良好。但し最近は夫が帰るのが遅く、浮気をしているのではないかと危惧している。あの堅物がそんな事をする筈が無いと思うが。
杞憂であって欲しい。
そして、今日は休日。
娘の祥子を遊園地へ連れて来て、夜のパレードも見終わり、タクシーを探して歩いている最中だった。
確認終了。
「流石に最後までいたせいか…………かなり疲れちゃったみたいね」
「歩きながらはかなり危ないよ……」
「ハハハハ………気をつけないとね」
「………いや、ゴメン。原因はあたしが付き合わせたせいなんだよね……本当にゴメンね」
「何言ってるの。若い者は親の気遣いなんかしなくていいの。………それより、今日は楽しかった?」
「うん!スッゴく楽しかった!!今までで一番楽しかった!!」
「そう………それだけで、嬉しいわ。祥子の笑顔で疲れも吹き飛んじゃう」
「ホント?」
「ホントよ。祥子の笑顔は凄いの」
「ヘヘヘ…………」
祥子の笑顔で私の心は救われる。
心が洗われるかのようだ。全てを許してくれる。全てを包んでくれる。
この笑顔は祥子がまだ子供だからこそ、の笑顔なのだ。
子供には邪気が無い。裏がない。
ただひたすらに純粋で。
愛を与えて貰う事しか知らない。
大人になればそうはいかない。
人の本質を知り、絶望する。
そして、良くも悪くも成長する。
祥子には邪気を知らないまま、大人になって欲しい。
そのまま大人の世界で生きていくのは、大変だろう。損をするかもしれない。
それでも、どんな人に対しても等しく愛を振りまける大人になって欲しい。
私の切なる願い。
叶えば、嬉しい。
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