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志津久は廊下の床を這うように駆ける。
「本当は珍獣じゃないの?」
ヘクセは右手の平を床に当てる。
赤く猛る炎が床の上を走る。
志津久は強く踏み込み、壁側に避けた。
すぐさま方向をヘクセに修正し直す。
「喰らいな!!」
ヘクセとて、それだけの行動を見落としやしない。
空いていた左の手の平に野球ボール大の炎の球体が形成されていた。
それを放り投げた。
「そんなもの、喰らう訳無いでしょ!!」
志津久も負けじと更に加速する。
ヘクセの放った炎に右手を伸ばし――“握り潰した。”
志津久にとっては風船を強く掴みすぎた為に割れてしまった感覚でしかない。
それ以前の問題で『炎が熱くないのか?』の項目が浮かび上がる。
志津久には炎は通用しない。
彼女の亜人のモデルは『炎の鬼神』である。
その名の通り、炎を操った鬼神――それが彼女に備わった能力。
炎は全て彼女の前では無に等しい。
むろん、彼女は自らも炎を作り出せる。
「さて、お仕置きの時間よ」
志津久は伸ばした右手をそのまま握り拳に変えた。
加速した速度を保った――いや、更に更に更に更に更に更に加速する。
さっきよりも、10秒前よりも、5秒前よりも、1秒前よりも、一瞬前よりも、今よりも――。
「ほら!! プレゼントよ!!」
ヘクセの頬に志津久から熱い右拳が送られた。
その右拳は炎に包まれた熱烈で、文字通り火傷をしてしまいそうな程に熱すぎた。
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