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「ところで遼太様」
狭い廊下を駆けながら朔が遼太に声を掛ける。
「どうかした?」
遼太は駆ける足を止めず、朔を振り返る事もなく返事をする。
「光太郎様の事なのですが……」
「光太郎の?」
バツが悪そうに切り出す朔に疑問を抱きつつも、話を進めるように促す。
「はい。遼太様方の家に居候をされていると耳にしまして」
「ああ、半月以上前に沙姫が路頭に迷っていた彼に会ったらしいんだ」
「半月程前……」
朔は何やら思案した。
考えが纏まったのか、次の質問に移る。
「彼は――どんな人ですか?」
それは素朴で、答えづらいものだった。
けれど、遼太の回答は簡潔だった。
「雲みたいな奴だな」
「雲……ですか?」
おうむ返しに朔は言う。
「普段はめんどくさいとか言ってる癖に、いざという時は自分から率先して行動を起こすんだ。
その原動力は良く分からなくてな。くだらない理由で動く事もある。他人の為に動く事もある――たまに普通なら動くに値する理由で動かないなんて事もある」
「適当なんですね」
率直な感想だった。
「でも、それが彼の良いところとも思える。
誰に流されるでもなく、自分の意志を貫き通す。簡単に出来る事じゃないさ」
それに、彼が我が儘を言いまくるなんて事はしない――そう付け加えられた。
「もし彼に何かあるとしても、俺達と敵対する事はないさ。雲みたいに掴み所のない奴だけどさ」
知ってか、知らずか、遼太は朔を悟すように言った。
「そう、ですね」
そう言われて朔は頷いた。
遼太がそこまで信頼するなら、心配する事は何もない。
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