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他に誰もいないからか、志津久と燦が駆ける足音だけが廊下に響き渡る。
「遼太達は無事かな~」
ボソッと志津久が呟いた。
「朔姉も付いてるし平気だよ」
燦がきわめて前向きな声量で告げた。
「それに、志津久お嬢の想い人はそんな簡単に殺されないって~」
「な、何を言ってるのよ!!」
志津久にしては珍しく、燦の言葉にムキになって反応する。
若干、心なしか頬も紅潮気味に見える。
「そう言いなさんな。志津久お嬢がリョウちゃんを好いてるって事は周知の事実なんだから~」
ニヤニヤと笑いながら燦が再度言う。
こんな光景は珍しい。
「そ、そういう燦は光太郎とどうなのさ?」
「…………コウちゃん?」
志津久の言った事を飲み込めず、上の空の状態になった。
気付くと燦の頬も赤くなっていた。
黙る燦を見て、今度は志津久がニヤニヤとしながら。
「だって、さっき時間差はあったけど光太郎と一緒に部屋に来たじゃないの」
余裕を取り戻し始めた志津久がここぞとばかりに攻勢に入る。
「良くわかんない」
志津久の問いに燦はそんな曖昧な返しで答えた。
「でも――」
光太郎とのやり取りを思い出す。
彼が自分の話を馬鹿になんかせず、真摯に向き合い、自分なりの回答をしてくれた。
適当に励まさないのは正しいと思う。
人にも因りけりだろうが、静香をさらわれた直後に励まされたりしては……落ち込みの度合いも小さくはなるまい。
そう考えると、光太郎の行動は理に適っていた。
「何だか、ポカポカするんだ」
胸に手を当てる。
「ふ~ん」
志津久の反応は淡泊だったが……気付けた。
同じ想いを持つ者同士。
ただ、対象との差が激しいから気付けないだけで――。
ここから先は喋ってはいけない。燦が気付くべき事柄なのだから。
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