わたしの初恋

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あれは中学2年生の春だった。 その日は始業式で、小林まどかは2年生の席でボーっと式の様子を眺めていた。 ―春眠あかつきをおぼえずってか~。 その年の始業式はぽかぽか陽気に恵まれて、まどかはいつも通りうとうとしていた。 しばらくすると隣りの絵里がまどかをつついた。 「まどか。起きなよ。担任の発表だよ」 「…ん。かつ丼…」 絵里が呆れた様子で、今度はまどかを揺すり小声で言う。 「まどか。担任だってば!」 まどかはびくっとするとやっと現実世界に無事帰還した。 「絵里ちゃん。いやー、でかいかつ丼だった…。ひとりで食せるかどうか焦ったよ~」 「…まどか…」 絵里は哀れむようにまどかを見ると視線をステージ上にもどした。 「あっほら、つぎ2年3組。…えー、野村かぁー」 絵里の言葉にまどかもステージ上を見ると、少しハゲかかった白衣の中年男―野村先生が頭を下げたところだった。 「あたし科学ダメなんだよね。野村先生科学でしょ?ムサいよね~」 絵里の言葉にまどかはほほ笑む。 「あたし実験大好き」 「実験はまだいいんだけどねぇ。物理とか意味分かんないもん」 「あー確かに。あたしも化学がイチバン好きかも~」 絵里とまどかがコソコソそんな会話をしているうちに各クラスの担任の発表は終わり、新任の教師の紹介にうつった。 『…続いて武藤高史先生。科学です』 さわやかな若い男性教師がペコリと頭を下げ、館内は少し女子がざわめいた。 「なかなかいいじゃん。科学なのにさわやかだし」 絵里が言う。 まどかは「そうだね」とつぶやきながら、胸の奥が「きゅん」となるのを感じた。
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