会話開始

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 ある日、ボールが言った。 「俺、もうボールやめたい」 「何言ってるんだよ。君がいないと、私たちはバレーできなくなっちゃうよ」 「だったら新しいボール買えばいいじゃないか二千円でさ。俺はもう嫌だよ。だってさ、君たちは受けて上げて打つだけじゃないか。君たちは一回ずつしか俺に触らないけど、俺は打たれて叩きつけられてちょっと優しく上げられたと思ったらすぐさま叩かれるんだよ。一プレーで三コンボなんだよ。しかもプレーヤーが苛ついてたら全力で叩かれるんだよ? 俺が何をしたって言うのさ」 「ボールは友達でしょ? 上手く付き合っていこうよ」 「よく言うよ。君たちは友達を打って蹴って投げるのかい? 友達だったら何でバスケットゴールの裏に挟まった仲間を助けてくれないんだよ。友達なら優しく包んでくれればいいじゃないか。ボールカゴの中がどれだけ安らげるか君は知ってるのかい? それに友達ならなんで俺はこんな真っ黒なのさ。身体も固くなってるし。昔は美しい白さがウリだったのに、君たちの手垢とかで真っ黒だよ。どうしてくれるんだよ。もう俺は限界だ。もう絶対、バレーボールには参加しないからな」 「ボール……」  それ以来、ボールは本当にバレーボールに参加しなくなった。仲間が打ちのめされていくのを痛々しげに眺めながら、ずっとボールカゴの底にいた。  古いボールが一つ抜けたところで、私たちは痛くもかよくもないんだけど、私はどこかやり辛かった。  本当はボール、参加したくない訳じゃなかったと思う。だって、それはボールの宿命だから。  そして何を言っても参加しようとしないボールに、私はついに爆発してしまった。
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