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はらり、はらりと桜が舞い散る。
薄紅色の桜が舞い散る様は、儚く…そして美しい。
舞い散る桜の花びらに囲まれて、一人の青年が佇んでいた。
「---桜も終りだな。」
哀愁漂う青年は白い手に、舞い散る桜の花びらを受け止めた。
艶やかな黒い長い髪を一つに結い、紺色の着物に灰色の袴を履く彼の身体は痩躯だ。
整った顔立ちは中性的で、性別が判断しにくい。
舞い散る桜より濃い色の唇、すっと通った鼻筋。
白い肌に映える、強い光を宿した黒曜石色の瞳。
彼は人目を奪う程、美しい青年だった。
「早く探さなければならない。---適合した者を…。」
唇から零れる言葉は重く彼の胸にのしかかる。
彼の細い腰には、一振りの太刀と一振りの脇差しが携えられている。
ゆっくりと歩き出す、彼の足には白い足袋と草履。
彼は静かに、ゆっくりとその場を後にした。
時代は幕末。
時代が移り変わろうとしている時。
---これは一人の孤独な神様の物語。
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