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人々が行き交う京の都。
その中を一人の青年が当てもなく、彷徨うように歩く。
歳の頃なら二十歳過ぎた辺りだろう。
黒い長い髪を無造作に結い、白い紐で束ねられている。
髪と同じ色の瞳は哀しげに揺れ、何も映していない。
すっと通った鼻筋、桜より濃い色の唇。
白い肌を隠す、紺色の着物に灰色の袴。
腰には刀を携えていた。
中性的な美貌の青年の名は黒冬と言う。
「---京の都に居るのだろうか?」
一人愚痴る黒冬は、ため息を吐き出した。
彼の美貌に道行く人々が振り返る。
道行く人が彼を見ている事態に、彼は憂鬱な気分になっている訳ではない。
黒冬には探している者が居るのだ。
(---一層の事、見つからなければ良いのに…。)
ため息を吐いて歩く黒冬の耳に、人々の怒鳴り合いの声が届いてきた。
黒冬はその喧騒に足を止め、音のするほうへ足を運んだ。
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