-1章-

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 人々が行き交う京の都。  その中を一人の青年が当てもなく、彷徨うように歩く。  歳の頃なら二十歳過ぎた辺りだろう。  黒い長い髪を無造作に結い、白い紐で束ねられている。  髪と同じ色の瞳は哀しげに揺れ、何も映していない。  すっと通った鼻筋、桜より濃い色の唇。  白い肌を隠す、紺色の着物に灰色の袴。  腰には刀を携えていた。  中性的な美貌の青年の名は黒冬と言う。 「---京の都に居るのだろうか?」  一人愚痴る黒冬は、ため息を吐き出した。  彼の美貌に道行く人々が振り返る。  道行く人が彼を見ている事態に、彼は憂鬱な気分になっている訳ではない。  黒冬には探している者が居るのだ。 (---一層の事、見つからなければ良いのに…。)  ため息を吐いて歩く黒冬の耳に、人々の怒鳴り合いの声が届いてきた。  黒冬はその喧騒に足を止め、音のするほうへ足を運んだ。 、
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