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まだ帰ってこないか。
剛はソファに座ったまま、ぼぉっと窓の外を見ていた。
ガチャッ━━━━
「ただいま戻りました。」
ドアが開いて、バーナードが入ってきた。
「奴等は?」
「逃げました…すいません。」
頭を下げたバーナードに、剛は言った。
「気にするな。いきなり過ぎたんだ。」
そう━━━━全てがいきなりだった。奴から連絡があり、突然告げられた住所…。
(その部屋に住み始めた男は、『アークファミリー』専属の殺し屋だ。私の指示に従えば何かと上手く事は運ぶ…。)
『アークファミリー』の情報を教えてくれるそいつ━━━━変声機で性別すら予想できないその声は何度も聞いたことがあったが、やはりその異様さからか、何度聞いても聞き慣れない。
「でも何故、奴はそこに送る人間まで選んだんでしょうか。」
怪訝そうな顔をして突っ立っているバーナードに、剛は座るように合図を出してから言った。
「後で面白いことがわかってな…あのアパートに行かせたお前の部下の中にN.Y.P.D.の奴が何人かいたな?何人か死んだが、その中にミスターアランの息子がいた。」
━━━━バーナードの眉がぴくりと動いた。
「あのミスターアランのですか?何故━━━━」
「お前が行ってからまた奴から電話が来たんだよ。ご丁寧に、ミスターアランの息子が死んだことと逃げた奴等の足取りを教えてくれたよ…もう部下を送ったが、多分仕留めてないだろ。」
「それで、何が面白いんですか?」
剛はニヤリと笑い、ポケットから煙草を出して火を点けた。
「『アークファミリー』と友好関係にあるミスターアランの息子を殺したのが、『アークファミリー』の関係者…あるいはそれに近いものだとしたら━━━━ミスターアランのことだ…間違いなく誰が息子を殺ったか探りを入れるだろうよ。」
バーナードは腕を組んで俯くと、少しの間を置いてから口を開いた。
「『アークファミリー』とミスターアランがぶつかる…奴はそこまで計算してあのアパートに送るメンバーを選んだと思っているのですか?」
「さあな。だが展開としては悪くないだろ。窮鼠は窮鼠なりにしっかり噛み付いてやらにゃ…。」
そうですね━━━━バーナードはそう呟いて立ち上がり、携帯電話を出した。
「それでは、私はミスターエルマーのところに行ってきます。"アトラス"を取りに行かないと。」
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