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「萌え」
「…なんだいきなり」
「いや、ねこがかわいくて。今この気持ちをたった一言で表すならコレがぴったりかと」
「普通にかわいいでいいだろ」
「かわいいだけでねこの魅力が伝わると思ってるのか」
「…………」
はい、言い返せませんね。
そりゃそうだ。
こいつだってねこの魅力に気付いちゃったひとりだもんね。ちなみに僕もそのひとりだけど。
…今更だけど、前の飼い主は相当なあほだったのかね。この魅力に気付かないで、あげくの果て捨てるなんて。
「つい、殺したくなるよね」
驚いたようにまっすぐ見つめてくるそいつ。
しまった。誤解されたかな。
「ねこを捨てた飼い主のことだよ」
「…………」
「ムカつく」
ねこは分かってないからいいけど、捨てられたことで人間を警戒してしまう猫だって少なくないんだ。警戒して、食べ物を恵んでくれる人間もいなくなって、飢えて死んでしまったやつだって。
「…それでも」
「ん?」
小さく呟いた男の言葉に、僕口端が少しつり上がったのはねこだけが知っている事実。
「殺すなんて…簡単に言うな…」
その姿はまるでなにかに脅える子供のようで。
萌えるね、その姿。
そう思う自分はちょっと…いやかなり変なのかもしれない。
「思うのは自由だよ。言うのもね」
「…………」
「本当にやるには、たくさんの犠牲を払わなきゃいけないけど」
思うのは簡単で、言うのも簡単。
でも実際に殺すとなると、それはたくさんの憎しみを背負うことになる。
奪うんだ。
その人の時間を。
その人の大切の人の幸せを。
だからそれなりの覚悟が必要。
理由もなく殺すなんて言語道断。理由があって殺すのもどうかと思うけど。
憎しみを背負ってその人の時間の分まで生きる覚悟と、消えることのない罪悪感を墓まで持っていく覚悟。
自分だけが幸せになると思うな。
人の幸せを奪っておいて、自分だけが幸せになるなんてそんなもんホントの幸せなんかじゃない。
「簡単に言うよ。自由なんだから。でも残念ながら、僕にはそんな覚悟はないから」
「…そうか」
「ていうか、そんな覚悟いらないよね」
そう言って笑ったら、男はなんだかおかしそうにうっすらと笑みを浮かべた。
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