第一回

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 雪は嫌いだ    残酷なほど白く美しいそれは、常に血の赤を求めて入るようにしか見えない。    神殿のろうそくを消しながら彼女は空を仰ぐ。   『雪は決して残酷なものではないのですよ』    今日言われた司祭の言葉。   『雪は神の慈悲です。その清らかな白さで全ての事象を白紙に帰してくれるのですよ。人の死もあくまで事象の白紙化に過ぎません』    雪の白さと同レベルの綺麗事。  人の死も事象の白紙化の過程にするくせに、人の死は白紙化してくれない。    雪はしんしんと舞い降り、深い闇に音を沈めていく    人の寝息、風の囁き。    そして、来訪者の足音   「ただいま、シルビア」    後ろからかけられる、声。    闇に紛れるように佇んでいるのは、待っても戻らない筈の愛しい人。    カシャンと手に持っていた灯りが神殿の床に落ちる。    枯れた筈の涙が溢れ出す。   「約束通り迎えに来たんだ。さあ、」    すっと、月の光のように淡い色をした手が差し伸べられる。    彼女は泣きながら笑顔でその手を受け取る。   「ーーー」        しんしんと雪は降る。    彼女の最後の声を吸い取って
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