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今一樹がいたら、たぶん僕はなりふり構わずその腕に飛込んでいただろう。
あの、力強い感触が忘れられない。
時計を見ればまだ深夜0時で、もしかしたらと思いカーテンを開ける。
案の定隣の窓…もとい一樹の部屋の窓からは明かりが漏れていた。
そういえば…お礼言ってなかったな…。
思ったらすぐ行動。
僕は窓のさんを跨ぎ、屋根から隣の屋根へと渡る。コンコンと窓をノックすればしばらくしてカーテンが開けられた。
『よしひろ!?』
「驚くのは後でいいからここを開けろ」
『あ、あぁ…』
驚く意味がわからない。
窓から訪ねてくるヤツなんて僕以外いないだろうに。カラカラと窓が開けられ、僕はすばやく部屋にあがりこむ。
これも幼いころから繰り返しているから慣れたものだ。
「で?なんか用?」
「……………」
いつもの受け答えに、僕はじっと一樹を見つめる。一樹はというとなんだよ…と気まずそうに目をそらした。
ズキリとなぜか胸が痛む。
「用がないと…来ちゃだめなのか…?」
「え…?」
今日の僕は…どうかしている。
「…お礼言いにきただけだ、ばーか。…今日は、助かった」
ありがとな、と小さく呟き部屋を出ようと再び窓に手をかけた途端、肩をつかまれ僕は危うく床に倒れそうになる。
一樹が後ろにいたからいいものを、下手すれば頭を打っていた。
「なぁ、よしひろ…」
背中から抱き締められ、僕はなぜかドキドキと早くなる鼓動に首を傾げた。首筋にかかる吐息がくすぐったい。
「今日の俺、かっこよかっただろ?惚れた?」
惚れた…だと…?
まさか僕がこんな馬鹿に惚れるわけがない。勘違いも甚だしい。
だいたい今日だってかっこよくなんか…。
「…………」
かっこよくなんか、思ってない…。
「誰がお前に惚れたりするか」
「……そっか」
なぜか傷付いたような顔を見せる一樹に僕は戸惑いを隠せない。
眉を寄せ、一樹に背中を向けた。
本当は…分かっているんだ。
「また…明日」
でも僕は…。
「あぁ…じゃな」
意地っ張りかつ負けず嫌いの僕は、素直に負けなど認めない。
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