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「ゲーム、やめようぜ」
「は?」
いきなりのそんな提案に僕はすっとんきょうな声をあげた。
なんで一樹が突然そんなことを言い出すのかが理解できない。
「だってさーよしひろだって昨日あんな目にあって、俺だって無駄に男に告白されて…なんかめんどいじゃん?ただやめんの嫌なら俺の負けでいいからさ」
「……なんだ…それ…」
怒りに、体が震えた。
「ふざけるなッ!!」
僕は走り出した。
一樹をおいて、振り返らず、地面を蹴り続けた。
いつもの通学路を、一人で…。
悔しかった。
一樹はあんなことを言うヤツじゃなかった。
僕が汚されてから一樹は僕に対する態度は変わった。あんなに…優しくするヤツじゃなかったのに…。
「っ…う…!!」
なぜか涙が出てきて、僕は歩調を緩めその場にしゃがみこんでしまった。
こんなハズじゃなかったのに。
好きになんて、なるつもりなかったのに…。
『俺の負けでいいから…』
違う、僕の負けだよ…。
全面的に僕の負け。
もう…勝負は終りにしようか。
そう思い、立ち上がると…。
「…え?」
…ちょっと待て。
今なんか隣をものすごいスピードで通りすぎたような…。
否、気のせいではない。
確かに僕の遥か前を走る人物がいる。その後ろ姿は見慣れたもので、自転車を必死でこいでいた。
というか、しゃがみこんでいる僕を普通おいていくか…?
「…っのやろう…」
ふるふると拳が震える。
僕はすぐさま走り出し、地面を蹴った。ヤツも相当スピードを出しているのかなかなか距離が縮まらない。
そうこうしていればもう学校は目の前で、一樹は自転車を投げるように駐輪場に放った。
確信した。
一樹は僕から逃げている。
そのまま校舎へと走っていく一樹を僕はひたすら追い掛ける。しかし途中で見失ってしまい、僕はそのまま教室へと滑り込んだ。
バンッと扉を開けてザッと見回してみてもやはり一樹の姿はない。
「一樹、は…?」
息が乱れる。ここまで全力失踪したのは何年ぶりだろうか。
陸上部をやめてからはこんなに本気で走ることなんてなかったから加減が分からなかった。
クラスメートたちは揃いも揃って首を振る。
一樹め…生意気な。
どうやら口止は忘れなかったらしい。
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