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「プルルルルルル~」
唐突に古めかしい着信音が響く――――――。
一世代以上前、世の中が科学と魔術(オカルト)に染まる以前の退屈な時代の遺産、黒電話と呼ばれる受話器から奏でられる電子音のようにも聞こえるが――――――、どうやらそうでもない。
少女が振り向いた先には年の頃七、八歳に見える幼女がヒラヒラとレースの彩飾されたスカートを広げ座っている、幼女はその口許を嘴(くちばし)のように尖らせて得意気に着信音を声帯模写してみせていた。
「‥‥‥‥アデモワール」
「ご主人たま、電話が――――――鳴っておりましたデスの」
鼻に掛かる奇妙な声、無機質で無誠実な言葉に少女は頭を抱えて項垂れた。
「鳴ったら出る、二日前にも教えてあげたはずじゃありませんか、貴女は?」
「ですが、足が無くては電話のある所まで行けませんデスの」
そう言う幼女の身体には両足がない、丈のスカートに隠れて見えないが彼女の下半身は足の付け根から下がなく、股関節と尻だけでバランスを取る幼女の姿は地べたに正座するように見えていた。
「だから素敵なキャタピラーを装着(つけ)てあげると言ってるのに」
「形(なり)は此ですがアデモワールもご主人たまと同じ淑女デスの、キャタピラーなんて不粋なコーディネートで社交界には行けませんデスの」
「貴女の仕事は電話番であって社交界の花ではなくてよ、アデモワール」
再び頭を押さえて少女が溜め息を漏らす。
《時》
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