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豪華な造りの木の扉を開けると中は騒然としていた。
娼館の内部は1階から2階まで吹き抜けになっていて、1階はたくさんのテーブルと小高いステージのあるホールがあり、ホールの左右それぞれに2階へ続く階段がある。
ホールにいた客は全員総立ちで2階の方を見ている。
従業員も手を止めて固まっていた。
そのとき館内の雑音をかき消すかのように2階から悲鳴があがり、俺はすぐさま2階へ駆け上がる。
2階の廊下は娼婦たちでごった返していたが急に人垣が左右に割れて中から誰かが出てきた。
女だ。
紅い服を着た女が俺がいる階段の方へ向かって歩いてくる。
服どころか髪まで赤い。
女の顔がはっきり確認できる距離まで近付いたとき俺は驚愕した。
服も髪も赤かったのは…全て血だった。
大量の血を浴びて全身を紅く染めた女はどこを見ているのかわからない虚ろな目で俺の脇を通り過ぎた。
もう疑わなかった。
間違いなくこの女が「深紅の女」だと。
俺は女の発する空気に気圧され身動きが取れなかったが辛うじて目線で彼女の背中を追った。
両手に拳銃とナイフ、それと蠍の絵が描かれた何かを持っている。
何か嫌な予感がして、俺は女が歩いてきた方へ視線を移すと、そこには俺が先程まで追っていた蠍の男が血を流して仰向けに倒れていた。
拳銃で心臓を撃たれ、蠍の刺青は皮膚ごと切り取られていた。
確実に死んでいる。
女が持っていた蠍の絵が描いてあったものは恐らくこいつの皮膚だろう。
「ここの支配人は?」
と、周りにいた娼婦達に聞くと娼婦達の影から着物を着崩した妙齢の女が出てきた。
「私が支配人だが…あんたは?」
怪訝な表情で俺を見る女に警察手帳を見せる。
「警察だ。現場保存のために人払いを頼む」
それを聞いた女は、廊下にいた娼婦達を部屋に下がらせ、階段を下りながら1階の客に事情を説明し始めた。
もちろん殺人があったなどとは言わない。
このシンジュクで長年娼館を営んでいるその手腕で上手く客を納得させたようだ。
全ての客が席に着くのと同時にクラシックの生演奏が再開された。
2階では既に娼館の黒服達の手によって事件現場は隠されている。
これなら一時凌ぎにはなるだろう。
俺は支配人にこの事件については俺から新宿署に連絡するので余計なことはせぬように、と伝えると深紅の女を追いかけるため娼館を後にした。
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