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娼館の外へ出た俺は深紅の女が残していった血痕を追って走り出した。
途中で血痕は途切れてしまったが、通行人に警察手帳を見せて血塗れの女と言えば簡単に目撃情報は得られた。
どれくらい走っただろうか。
突然耳に銃声と叫び声とガラスの割れる音が飛び込んできた。
音のした方へ向かうと2階の窓が粉々になったビルを発見し、中へ入る。
階段を駆け上がる間にまた銃声が聞こえたような気がしたがとにかく急いだ。
2階は何かの事務所が入っているが明らかにマフィアか暴力団の事務所だ。
入り口のドアが微かに開いていたので音を立てないように中に入る。
事務所の中は照明はついておらず真っ暗だった。
足音をたてぬようにゆっくり歩を進めると爪先が何かに当たり、徐々に暗闇に慣れた目でそれをよく見るとそれは人間の死体だった。
体の数ヶ所を撃たれて血を流している。
床の絨毯に吸い尽くされない血液が血溜まりを作っていた。
周りを見渡すと他数名の死体と、撃たれたときに手から離れたのであろう拳銃が散乱していた。
手近にあったリボルバーの拳銃を拾い、シリンダーの弾丸を確認して死体と血溜まりを避けながら奥へ進んだ。
更にドアを発見したのでゆっくり開け、中の様子を伺う。
部屋の中は割れた窓から月の光が差し込んでぼんやり明るかった。
部屋の中心にスーツ姿の男が倒れている。
恐らくこの事務所のトップだろう。
彼もまた部下達と同じように血溜まりを作っていた。
急所を撃たれていて既に息は無い。
その傍らに深紅の女が座り込んでいた。
銃を構えたまま女に近付いていく。
女の背後に立って気付いたのだが、女は泣いているようだった。
「おい、あんた…」
銃を下ろしながら声をかけた瞬間、女が振り向き様にこちらに銃口を向けた。
俺も慌てて銃を構え直す。
お互いの銃口がお互いを捉えた。
どちらかが引き金を引けば死人が出る。
一体どれくらいそうしていただろう。
一瞬だったかもしれないし物凄く長い時間だったかもしれない。
俺の額から嫌な汗が頬を伝った。
沈黙と、向けられた銃口と、そして何よりその眼に耐え切れず俺は問いかけた。
「あんたは…誰だ?」
やはり女は泣いていた。
両眼から流れる涙を拭いもせず、俺を真っ直ぐに見据えて女は答えた。
「私は…女王蜂」
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