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ある初夏も近い蒸し暑い日だった。俺の名前は青井 昊(アオイソラ)。26才独身で会社員。最近、俺の部屋では変な事が、良く起こるようになった。机の上の写真立てが動いたり、テーブルに置いていたはずのお菓子がなくなったり、夜中には足音が聞こえたりもした。一番不思議なのは人の声が聞こえてくるのだ。
別に霊感があって見えない存在が見えたりする訳でもないのだが、確かに小さな声が聞こえてくるのは間違いなかった。
しかし、ついに今日その原因がなんであるか分かった。
「おーい。こっちこっち。」
今日、俺は親友の大海 渉(オオウミワタル)と飲む約束をしていたのだが、仕事が長引き遅れてしまった。渉はあまり気にしていないのか、店の奥の席でニコニコしながら手招きをしていた。
「ごめん。わりーな。遅れて。ちょっと仕事でトラブってさ。」
「いつもの事だ。気にするな。それで何飲む?」
「じゃあビール。」
「お姉さんビール1つね。」
それにしても今日はやけに優し過ぎる。いつもなら怒鳴っているはずなんだが、その原因は直ぐに分かった。テーブルには俺が来る前から2つのグラスがあった。俺がその事に気づいたのを渉は見逃さなかった。
「実はさ。お前に紹介したい人が居るんだ。」
そう言ったそばから一人の女性がやって来た。
「紹介するよ。俺の彼女。」
渉はデレデレしながら紹介をした。見てられない。
「久しぶりね。昊くん元気だった?」
そう言われて驚いた。目の前に居る女性は俺達の幼なじみの白井 華(シロイハナ)だった。
「久しぶり…。えっ…?えーーーっ!?」
俺は2人を交互に指をさしながら目を丸くした。
「そんなに驚くなよ。俺達、中学の頃から付き合ってたんだぜ。お前知らなかったっけ?」
俺はこの状況が飲み込めずポカーンとしていた。渉とはたまにこうやって会ってはいたが、華とは小学校卒業以来だった。
《なんとあの華がこんなに綺麗になるとは…つうか何故今頃そんな事を教えるんだ?》
そんな事を思っていると渉が言った。
「俺達、来月結婚するんだ。結婚式来てくれるよな?」
そう言って白い封筒を差し出した。言わずと知れた結婚式の招待状だ。
「あっああ…。もちろん行くよ。」
何か複雑な思いが俺の頭の中を渦巻いていた。
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