第一章

2/9
前へ
/16ページ
次へ
ある初夏も近い蒸し暑い日だった。俺の名前は青井 昊(アオイソラ)。26才独身で会社員。最近、俺の部屋では変な事が、良く起こるようになった。机の上の写真立てが動いたり、テーブルに置いていたはずのお菓子がなくなったり、夜中には足音が聞こえたりもした。一番不思議なのは人の声が聞こえてくるのだ。 別に霊感があって見えない存在が見えたりする訳でもないのだが、確かに小さな声が聞こえてくるのは間違いなかった。 しかし、ついに今日その原因がなんであるか分かった。 「おーい。こっちこっち。」 今日、俺は親友の大海 渉(オオウミワタル)と飲む約束をしていたのだが、仕事が長引き遅れてしまった。渉はあまり気にしていないのか、店の奥の席でニコニコしながら手招きをしていた。 「ごめん。わりーな。遅れて。ちょっと仕事でトラブってさ。」 「いつもの事だ。気にするな。それで何飲む?」 「じゃあビール。」 「お姉さんビール1つね。」 それにしても今日はやけに優し過ぎる。いつもなら怒鳴っているはずなんだが、その原因は直ぐに分かった。テーブルには俺が来る前から2つのグラスがあった。俺がその事に気づいたのを渉は見逃さなかった。 「実はさ。お前に紹介したい人が居るんだ。」 そう言ったそばから一人の女性がやって来た。 「紹介するよ。俺の彼女。」 渉はデレデレしながら紹介をした。見てられない。 「久しぶりね。昊くん元気だった?」 そう言われて驚いた。目の前に居る女性は俺達の幼なじみの白井 華(シロイハナ)だった。 「久しぶり…。えっ…?えーーーっ!?」 俺は2人を交互に指をさしながら目を丸くした。 「そんなに驚くなよ。俺達、中学の頃から付き合ってたんだぜ。お前知らなかったっけ?」 俺はこの状況が飲み込めずポカーンとしていた。渉とはたまにこうやって会ってはいたが、華とは小学校卒業以来だった。 《なんとあの華がこんなに綺麗になるとは…つうか何故今頃そんな事を教えるんだ?》 そんな事を思っていると渉が言った。 「俺達、来月結婚するんだ。結婚式来てくれるよな?」 そう言って白い封筒を差し出した。言わずと知れた結婚式の招待状だ。 「あっああ…。もちろん行くよ。」 何か複雑な思いが俺の頭の中を渦巻いていた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加