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「俺、ちょっと外出てくるわ」
その声も父さんには届かない。
「いて」
玄関には、でかい箱が届いていた。
開けてあり、漁具らしい太めのロープが届いていた。
躓いて蹌踉めいて、ポケットから折りたたみナイフが転がる。
コン、ココン、コ。
玄関の木の板が凹む程の衝撃が1DKのこの家に響いても、彼は机に顔を伏せたまま横に動かすくらい。
起きる様子はない。
俺は安心して物騒な物を拾う。
戸を開ければ雨が降り込んだ。
黒い雨合羽で俺は外へ踏み出す。
耳には雨しか聞こえない。
海から波が吹き込み、船着き場のコンクリートに流れてくる。
…儀式を毎日欠かしては駄目だ。
父があのようになってしまってから、俺の中での決まり事だ。
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