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『それは何?』
『てるてる坊主だ。明日も海へ行けるように、雲一つ無いように飾る』
こんな雨の日に、何の科学的根拠もないのに笑顔で俺の頭を撫でたっけ。
不器用にたった一つだけ作ったてるてる坊主を自慢にしながら。
それは遠い昔の日。
今は奴らのせいで父さんは廃人同様まで追い込まれている。
大しけのせいだけじゃない。
あいつらが三年前から現れた事で父さんは変わった。
漁から帰って来る度に疲労だけではなく悩みも持ち帰ってくるようになった。
日に日にそれは増し、酒の量も増し。
家に入る金も無く、船の維持費や油代の借金を重ねる始末。
こいつさえいなければ。
俺はゴム手袋を重ねた手でナイフを振り下ろす。
恨みを込めて腕を掴み、を一本一本切り裂く。
雨の中、その凶行の音は響くこともない。
体液も雨で流してしまう。
まず、こんな田舎で俺が殺戮を繰り返している事をしているなんて思わないだろう。
3年前、この儀式を始めたあの日から、今日は記念すべき日になる。
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