平和への一歩

7/16
30人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
「あー、あんなに走ったの久しぶり」 はぁはぁと息を切らし、電車のドアにもたれかかる慶。 流石にこの時間帯は車内はがら空きで、2人は息を整えると適当な椅子へ腰を下ろした。 妙に緊張した面持ちで電車を下りた慶と、相変わらずな大和。 慶も緊張には強いはずだったが、流石に乗り込むとなると話は別であった。 「大和。場所分かるの?」 駅を出ると、やたら交通量の多い道路が目に入った。 乱雑に入り組んだ建物を見る限り、それらしいものは見当たらない。 「徒歩で15分。駅からは少し離れてるな」 恐らく携帯でその会社のホームページでも開いているのだろう。 液晶から目を離す事なく、大和は答えた。 「15分か・・・」 一度も訪れた事がない土地を歩くのに、15分は少々長すぎる。 あくまでも体感的な話だが。 「コンビニよらね?」 前方にコンビニを見つけ、大和が顔を上げた。 慶が頷くのを確認すると、携帯をポケットへしまってコンビニへと入る。 「何買うの?」 「ジュースとお菓子だな」 そう言いながらチョコを手に取り、ガムを取り、そしてペットボトルを一つ選んだ。 「あ、このジュースCMでやってるよね」 「あぁ。なんか美味そうじゃね?」 炭酸が嫌いな大和が選んだのは、『梨りんご』というジュースだった。 名前の通り、梨と林檎の両方を合わせた味なのだろう。 ラベルは左半分が梨、右半分がりんごのなんとも不思議なものだった。 会計を済ませコンビニを出て、2人は再び運営会社を目指した。 結局慶もお茶を買い、2人で歩いていると大きな通りへと出た。 「あれじゃね?」 そう言って指差した先には、一際大きく、ガラス張りで目立つ建物があった。 地図と照らし合わせてみてもぴったりで、やはりあれらしい。 N・W社。STARSにより一躍大企業となった会社だが、唐突すぎた躍進が原因で悪い噂話が絶えない。 『裏では麻薬取引をしている』や『賄賂によって万事を運んできた』、『海外の生体実験にも携わり、その研究費でSTARSを作った』など、どれもこれも根拠のないデタラメばかり。 しかしこう本社を目の当たりにしてみると、そういったイメージを持たれても不思議ではないような、妙な不気味さがあるようにも思えた。 これが先入観からなのか、それとも全く別の何かなのかは分からない。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!