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「タダシは将来の事とか考えてる?」
唐突にこんな事を切り出した僕に対して、タダシはあからさまに不機嫌になった。
「何お前、俺の事バカにしてんの?」
「違うよ、ただの好奇心」
「じゃあ答えてやるけど、ぶっちゃけ何も考えてねーよ。どーにかなるだろ将来なんて」
ドアからノックの音が聞こえた。どうやら母がおやつを運んできたらしい。
毎度恒例のことだ。タダシが慌てて姿勢を正す。
「翔(かける)くん、お勉強はかどってる?」
今日のおやつはスイートポテトとオレンジジュースだ。タダシの目が一瞬そちらに集中するが、すぐさま作った笑みを母に向けた。
「翔くんは本当に頭がいいです。僕も教え甲斐がありますよ」
「本当に?ありがとうございます先生。私立は大丈夫でしょうかねぇ?」
「問題ないですよ、翔くんなら」
「良かったわ。先生のおかげです」
バカなタダシも母に対しての演技だけは見事である。吹き出しそうになるのをこらえるのは僕にとって至難の技だ。
大学生で家庭教師のアルバイトをしているタダシは僕に勉強というものを教えたことがない。母が部屋に入る時以外は、たいてい僕の漫画を読んでいる。その横で僕は黙々と問題を解く。初めてタダシが家に来た時からこのスタイルが続いている。
僕は別にこの現状に不満はなかった。
ある程度の人数に囲まれた塾という うっとおしい環境が嫌で、親に家庭教師をつけてほしいと頼んだ。
その結果こんなふしだらな家庭教師が来たわけだが、別に勉強なんて本来一人でもできるのだ。
だからタダシが全く自分の仕事をしていないことも秘密にしてやっている。
そのかわり僕はタダシに頼みたいことがあるのだ。
「将来が決まってないんならさ、僕の父さんの会社で働くのはどう?」
「ホントにお前は小学5年の分際でエラソーだな。お前んとこの会社?つまんねえだろ」
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